30 August, 11

「travel zine vol.5 "AMERICA"。」

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 赤褐色の巨大なモニュメント(石碑)が立ち並ぶ砂の大地のど真ん中で、その間を吹き通って行く風の音に耳を澄ましてみる。すると、その中に混じった『草木や砂の擦れ合う小さな音』が少しづつ耳の奥に届き始めて、自分もその自然の営みの一部になったような、不思議な一体感を味わうことが出来るのである。
モニュメント・バレーは、先日訪れたグランドキャニオンほど多くの人が訪れる場所でもないようで、その敷地内にいる間に「騒がしさ」を感じることは、一度もなかった。どれほど有名なビューポイントに立っていても、そこでは常に、風の音が、草木や砂の擦れ合う音が、二人の耳まで届いてくるのだ。
今日もやはり良く晴れたが、空には刷毛で引いたような薄雲がゆっくりと流れ続けており、それが、静かな砂漠の風景に不思議な疾走感を与えている…。
(travel zine vol.5 『AMERICA』より、抜粋。)

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その場で、気が済むまでシンとした濃密な時間を過ごした後、敷地の外に出たところからようやく『今夜の寝床』を探し始めた。この周辺は特に大きな町があるわけでもないから、「安宿を見つけるのは難しいかな…。」などとぼんやり考えていたりしたのだが、途中、ナバホ族(この辺りに暮らすネイティブ・アメリカン)の小さな集落を通りがかった時、「ここ、宿泊できますよ。」…的な小さい看板が建っているのを偶然に発見したのである。すぐに、その殺風景で広々とした敷地の中へ車を入れて、人影を探し、出て来た家主と交渉してみたところ、「あそこにある『Hogan(ホーガン/土で出来たドームハウスで、ナバホ族の伝統家屋である。)』が空いているから、おまえら泊まりたきゃ使っていいよ。」…と、素敵な部屋を提供してくれたのだ。二人で一泊(素泊まり)50ドル。格段安くもないが、低価格チェーンのモーテルと似たような水準だから、まぁそれほど悪くもない。何より、こういう『不思議な家』に泊まれるってこと自体が楽しくって、「旅っぽいなぁ(笑)。」なんて言い合いながら、何だか、気持ちがワクワクしてくるのを感じた。

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荒涼とした大地のど真ん中に立つ、ネイティブ・アメリカン仕様の、土で出来たドームハウス。日が落ちると同時に少しづつ冷え始めた室内の空気を暖めるため、部屋の中央に設置されている鉄製の暖炉に火を入れた。一気に室内が明るくなって、二人の姿も橙色に染まる。暖められるのは部屋の空気だけじゃなくて、人の心も…なんて、そんな風なことを自然に思わせてくれる、素敵な灯りだ。

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翌朝、まだ暗いうちにベッドから起き出して、懐中電灯片手にホーガンの外へ出た。冷たい朝の空気の中で必死に身体を摩りながら、二人並んで玄関ドアの前に佇み、東の空へと目を向ける。そして…。
そして、夜明けがやってきた。少しづつ白み始めた空の向こうから確実な勢いをもって昇りくる朝日と、それを受けとめるだだっ広い空。それに、その下で次第に色を取り戻していく赤土の大地が織りなす目の前の風景は、どうにも圧倒的で、叙情的で、そうなるともう、二人にはその情景を言葉で表現することが出来ないから、結局「うわぁ。」とか、「はぁ。」とか、そういう単純な感嘆詞を言い合って、それでも確実にその感動を隅々まで共有していたのである。

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とにかく、そんな風にして世界は再び柔らかい光に包まれ、いつもと同じ平和な『朝』を迎えることが出来た。そんな一部始終を静かに見届けて、心から満足した二人は、「そうかそうか。」と頷きながらもすぐに暖かいホーガンの中へと戻り、まだ少しだけ温もりが残るベッドに素早く潜り込んだのであった…。

(以上、travel zine vol.5 『AMERICA』に掲載の“ダイアリー”より抜粋。)

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…先週、金沢21世紀美術館に郵送した、第5弾のジン『アメリカ』。
ここに抜粋した記事のような『西海岸周辺ドライブ紀行(2008年3月)のほかに、
その半年前に訪れた東海岸、ニューヨークでの暮し(2007年11月)についても
写真や日記を掲載しています。

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21世紀美術館での展示(企画展『art-ZINE』)は9月の25日までなので、その直前に、展示確認を兼ねて『金沢旅行』を計画中。実際、他の人が作ったジンとかほとんど見たことないでやってるから、そういう意味でも楽しみだったりします(笑)。

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※ travel zine vol.5『AMERICA』の内容については、こちらのページ(『福富書房』)にも詳しくのっています(特に、写真とか)。是非ぜひ覗いてみてくださいね。

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