20 September, 11

『Constantinople -20 Oct 2010-。』

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早朝、まだ夜が明けきらない内に、バスはイスタンブールのアジア側ターミナル「ハレム」へと到着した。本当はシノップで乗り込んだ長距離バスが2人をここまで運んでくれるハズだったのだが、到着直前、町まであと数㎞という辺りに辿りついたところで、深い眠りに落ちていた2人はガサツな太い腕にゆり起こされたのである。「あとは、あの市バスに乗り換えて行ってくれ。料金はこちら持ちで、既に払いは終わっているから。」…アテンダントのオヤジに急かされ、眠りから覚めたばかりのボケ~っとした頭のまま、何だか訳も分からない内にその市バスに押し込められてしまった...。

早朝の市バスの中は、薄汚いジャンパーを着たような乗客が数名乗っている程度。最初は僕ら2人を窺っていた数人も、すぐに興味を失くしたように、窓の外へと視線を移してしまった。何となく落ち着かない『妙な空気』を感じながら、僕らも視線を窓の外にそらす。まだ真っ暗な町の中、最初は何も見えなかったけれど、少しずつ暗闇に目が慣れてくると、そこにはたくさんの人影が蠢いており、既に人々の『1日の営み』が始まっていることに気付かされた。店の開店準備をする人々や、何処かに向かって歩く人々の群れや…。それにしても、あのドタバタの乗り換え劇は一体どういうことだったのだろうか。ハレム方面に行くのが僕ら2人だけなのに途中で気付いた車掌が、急遽『横着』することを決めただけ…そんなところである気もする。まぁ、それでもとりあえず予定時刻前には無事『ハレム・バスターミナル』まで辿りつく事が出来たのだから、大筋に問題はないのだけれど。

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バスを降りると、外の空気がやけに冷え込んでいる事に気付いた。さっきの乗換えの時は2人とも半分眠っているような状態だったからか、薄着で外に出たにも関わらずこの寒さにも全く気が付かなかったらしい。
ほんの数日離れていただけなのに、イスタンブールではいつの間にか秋が過ぎ去って、町も空気も人々の姿も、すっかり冬らしくなってきてしまったようだ。
「少し、暖まって行こうか…。」
ジャンパーを着込み、バックパックを担ぎなおすと、ターミナル傍のカフェまで歩いて、明るくなるまでの時間潰しに温かいチャイを飲むことにした。次第に明けていく空の色を見ている限りでは、今日は比較的〟ましな天気〝なのかもしれないと、思う。先週までのイスタンブールには雨と灰色の曇り空の印象しかなかったから、「そろそろ青空が見たいな。」…と、そんな事をボンヤリ考えてしまう。白み始めた空の色と時計の針を何度か確認した後、遠くの空からフェリーの汽笛が聴こえたような気がした。少しぬるくなってしまったチャイを一気に飲みほし、デッカイ荷物を担ぎ直すと、朝方の澄んだ空気の中、シンと静まり返った通りを2人並んで、再び歩き出した。
フェリーの料金は、市内を走るバスやメトロと同じ1.5TL(約90円)。このフェリーに乗ってヨーロッパサイドの“スィルケジ”地区に向かうのが、安宿が密集するスルタンアフメット・エリアを目指す場合の最短ルートであり、最安ルートになっている。しかし、このフェリーを使う利点はそういう実質的(金額的)な事だけではなくて、この、甲板から眺める金角湾岸の町の風景が、「あぁ、いよいよイスタンブールにやって来たんだ…。」という、感動というか、感慨を抱かせてくれる…って、それが一番なんじゃないかと思ったりもするのである。

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夜が明ける程にヨーロッパサイドの陸地が近づき、スルタンアフメット地区にそびえ立つブルーモスクやアヤソフィアの尖塔らしき姿が淡く、少しづつ見え始めてくる。ガラタ橋を挟んだ湾の向かい側には、ひと際目立つガラタ塔の美しい『立ち姿』も、小さく見えてきているようだ。いよいよ、この町(イスタンブール)に戻って来たのだ。
先週は上手く感じることが出来なかった『感慨深い気分』みたいなものを、ここにきてようやく感じる事が出来た気がする。 「3年半、か…。」
 旅立ち以来、思いがけない程に長くて濃くて、大切な時間を2人で過ごしてきたはずなのに、このフェリーの上で目の前の景色、見た事のあるこの景色を眺めていたら、全てがほんの一瞬のうちに経過してしまったことのようにも感じられて、何だか少し焦ってしまった。
「まぁでも結局、ここに戻ってきたんだなぁ…。」
ボンヤリと甲板のベンチに腰掛けて寒さに震え、身体を摩りながら、これまでに通り抜けて来た国々での色々な出来事を懐かしく思い出して、そしたら別に何も可笑しくはないのに、今度は妙に顔が綻んできてしまうのであった。

空は益々明るくなって、周囲に広がる景色にも、よりクッキリとした輪郭が浮かびあがってきている。そうか、冬は空気が澄んでいるから、こういう風景もいつもよりキレイに見えているのか…。朝焼けに色づくそんな風景に見とれて、でもいつからかボンヤリ別の事を考えていたら、気付いた時にはヨーロッパサイドの陸地と街並みがもうすぐ傍まで近づいていた。2人はアタフタと出発準備をして、出口階段に並ぶ人々の列に急いで加わったのであった。

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宿は、スルタンアフメット・エリアの中でも最も多くの安宿が集まる通り「Akbiyik(アクブユック)」の周辺で選んだ。Agora Guesthouse & Hostel(アゴラ ゲストハウス&ホステル)はまだ開業して何年もたっていない新しめなホステルらしいが、非常に清潔な内装と、豪華なブュッフェスタイルの朝食が魅力の、安宿らしからぬ素敵な宿だ。その分、個室料金はやっぱり高いから、ドミトリーに泊まる事にはなるが、それはまぁ、仕方がないだろう。イスタンブールで安い部屋を見つける事は、もう随分難しくなってきてしまっているのだから。
到着した時刻がチェックインに少し早すぎた為、フロントで荷物を預かってもらって、そのまますぐに、メシも食わずにインド領事館へと向かうことにした。今日はいよいよ2人の『インド・ビザ』が発行される予定なのである。
訪れた領事館では、早々にまず「申請が無事に通った」ことを通知され、2人は胸をなでおろした。係りの女性に料金とパスポートを預けてしまうと、「ビザの最終受取は、今日の夕方5時以降になります。」と言われ、まだ随分と時間があるから一度その場を離れる事にした。空いた時間をやり過ごすため、まずは近所のショッピングエリアに軽い気持ちで出かけたのだが、何故か途中から散歩が勢いづいてしまって、気付いたらオルタキョイと呼ばれる海辺のエリアまで、思いのほか長い距離を歩いてしまっていた。
オルタキョイは、ボスポラス大橋の袂辺りの若者で賑わう繁華街で、テイクアウトの「クンピル(Jacket Potato)」がわりに有名だから、訪れる観光客もかなり多い。2人も勿論、この『クンピル』を試してみたくてこの町を訪れたわけなのだが、ボリューム満点、具だくさんで、まぁなかなかに美味いモノであった。かなりデカイから2人で1個を分けながら食べるので十分 『おなかいっぱい』 になれる。1個8TL(約480円)。

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周辺にはオシャレな雑貨屋や土産物屋が並んでおり、その内の1軒、小さな画廊で僕らはポストカードを数枚購入した。古い時代のモノクロ写真を使った雰囲気の良いポストカードで、脇には「Constantinople(コンスタンティノープル)」と、小さな文字で書かれている。様々な王朝を迎え入れ、その度に名前を変えてきたこの町の歴史を、その写真の中に切り取られた小さな世界から想像してみるのも、なかなか楽しいものである。
夕方前にバスでタクシム広場に戻ると、そこから伸びる大通りを歩いて再びインド領事館へ向かう。戻ってきた館内の狭いフロアーには、相変わらず大勢の多国籍な申請者たちが長蛇の列を作っており、僕らもその後ろへと加わって順番が来るのを待つことになった。
窓口ではバックパッカーらしき白人の若者が、なにやらコソコソ小さな声で係官に相談している。アジア風、インド風、ビジネスマン風、ヒッピー風…本当に様々な種類の人たちが、この狭い空間にひしめきあっている。
以外に早く列が進んであっという間に僕らの番になり、窓口の前に進み出ると、特に何の問題もなく無事にビザは発給されていた。あまりに問題が無さ過ぎて、ちょっと拍子抜けしてしまったくらいだ。  
やっぱり、天気が良いと違うな。天気が良いと散歩も楽しいし、ビザを発給する係官の心も、きっと穏やかで、作業が思いのほか(!?)はかどったのだろう。
明日も、明後日も晴れればいいのに…。帰りのバスに揺られながら、2人とも何故か黙ったままで、ただ、空ばかりを眺め続けていた。

(2010年10月20日のブログ記事に加筆したものです。)

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…なんて文章をいくつか、travel zine vol.8 "ISTANBUL" に載せました。あとは、日本に帰ってから再現料理したトルコ料理の記事なんかも(左の写真のやつ)。目指せ、書籍化! 

さらに詳しい内容については、こちらのサイトに載っています。
福富書房 / travel zine vol.8 ISTANBUL

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