22 February, 11

「Long Goodbye。」

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AM6:00起床。最後のパッキングを済ませると、大きな荷物を背中に背負って朝靄に煙る早朝の上海を歩き出した。上海到着以来、こんな早くに出掛けることは一度もなかったから、その張り詰めた空気感が何だかとても新鮮で、妙に気持ち良く感じられる。…とはいえ、上海のような大都会で通勤時間の真っ只中に“デカ汚い”Backpackを背負いながら歩く行為ってのは、あまり好ましい事とは言えないだろう。背中の荷物が邪魔になって満員のバスや地下鉄には乗りづらいし、何より、周囲の地元民たちが投げてよこす『好奇の視線』が身体に痛いのである…。

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泊っていたHostelから国際線用フェリー乗り場までは、『歩き』と『メトロ』と『バス』を織り交ぜた非常にややこしい道程である。タクシーを使ったりなんかすればもう少し単純で分かりやすかったのだろうが、それだと無駄に金が掛かり過ぎるし、胸に残る記憶の質も薄まってしまうことだろう。さらに考察してみれば、「そんなに簡単に“帰路”につきたくない。」…という、往生際の悪さが心の片隅にあって、敢えて時間の掛かる複雑なルートを選んだのかもしれない。無意識に。

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案の定、通勤時間帯のメトロやバスは大量の“人民”たちでごったがえしていて、特にバスに乗込む時なんか、横から割り込んできたオバちゃんたちに何度も跳ね飛ばされ、そうしている間に目の前の扉が『プシュ~。』なんて!? 同じ展開で満員バスを何本もやり過ごした末、より強引に前へと出ていく術を覚え、何とか1本のバスに『押し入る』ことが出来たのであった。

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近代的なビルや複合施設が立ち並ぶ○○河沿岸の、とある一画。UFOのようでもあり、また火星人のようでもある不思議なカタチをした円盤型建造物が、2人の目指す国際フェリー発着場である。まだ新しい施設であるらしく、外部も内部も非常にキレイ(衛生的に)。
チェックインカウンター付近の空間はそれほど広くもないのだが、そこで待つ乗客の数が極端に少なかったからだろうか、狭いハズのその空間が2人には妙にだだっ広く感じられた。

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天気は、晴れ。朝の空気を白く濁らせていた靄は何処かに吹き飛んでしまったようで、その向こうに広がる青空にはサンサンと輝く黄色い太陽の姿が見える。新たな門出には、悪くない日和だ。いつもと変わらぬ煩雑な『国境手続き(出国手続き)』をトントンと順調なリズムで済ませてしまうと、陽射しの中をシャトルバスで移動し、いよいよフェリーの内部へと向かった。

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そして、そこでまず2人が気に入ってしまったのは、何といっても“今日の宿”となる4人用の2等船室である。この『上海~大阪』間を結ぶ国際フェリー“蘇州号”において、一番安いチケットは『ザコ寝用大部屋』となっているのだが、そこでは男女が別部屋に分かれている為、2人の様なカップル旅行者が「船内での時間を少しでも一緒に…。」と考えた場合、どうしてもその1つ上のクラスとなる『4人用ドミ部屋』か、それより上のクラスの部屋を利用することになる。本当は、2人用船室(1等)がとても気になっていたのだが、何度も言うように目下の“苦しい経済状況”が2人にその部屋の利用を許さず、妥協線としての「ドミ部屋利用」を渋々(!?)受け入れることとなったのであった。

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…だが、そんな経緯を忘れてしまうくらい、この船室の作りは2人にとって魅力的であった。その魅力はもちろん、室内設備の『高級感』が造り出すモノ…では、ない。設備は最小限で質素で味気ない、正真正銘の『安普請』なのだが…。何だろう、その佇まいというか、ミニマルな空間構成が旅人の心をワクワクさせるのである。

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まず、カプセルホテルを思わせるような(泊ったことないけど)、カーテン付きの二段ベッド。カーテン内部のベッド空間には読書用のライトも装備されていて、中に籠るとテント生活のような楽しい気分を感じることが出来る。そして、部屋の両サイドに配置されたベッドの間を抜けたその先、窓側の一角には1,5畳ほどのタタミ空間があり、ちゃぶ台の様なサイズの机とテレビが設置されているのである。このタタミ空間が、特に2人のツボであった。バス移動とも、列車移動とも、飛行機移動とも違う船旅独自の“個性”が、その空間に凝縮されていたような気がする。

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蘇州号はとても小さな客船だから、ストックホルム(スウェーデン)~ヘルシンキ(フィンランド)間で利用した豪華客船のような華やかさは微塵もないけれど、場末の静かな温泉旅館的『日本のもてなし』が、随所に感じられる。珈琲ラウンジに置かれたソファーセットは“ルノアール的”懐かしさと清潔感があり、前方に開けた窓からは真っ蒼な海と空が見渡せる。傍らに並べられた雑誌や新聞も、長旅帰りの2人には嬉しい存在だ。2日間の航海の最中に、“抜け落ちた情報”の補填が少しは出来そうである。

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レストランには日本食メニューが並び、『カレーライス500円』『カツ丼500円』などの文字が、2人の顔をほころばせる。レセプション前に設置された自販機で売られるビールやカップ麺も、全て日本の商品であり、日本通貨『円』での販売だ。
…いよいよ、帰国…。乗船前はその思いが2人に“マイナスな気分”を誘っていたのだが、船内に溢れる様々な魅力を見て廻っている内、いつの間にかまた『旅の途中』のハイなテンションが身体中に戻って来ていた。まだ、旅は終わっていない。…いや、というよりは、旅ってこういうカタチで終わるモノじゃないのかもしれない。思うにそれはもっと精神的なものであって、こういう『出国』『入国』もしくは『帰国』という行為が示すものではないような気がしてきた。…「Traveling the World」、まだまだ続きますよ(笑)!?

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