「Blue。」
金曜日の朝の九塞溝。薄く積もった真っ白な雪の中に、エメラルドグリーンの湖面が浮かぶ。澄んだ水の向う側には、朽ちた木々が寂しげに横たわっているのが見える。冷たく張り詰めた冬山の空気は混じりッ気のない清潔感を漂わせていて、それがこの風景の透明感をより完璧なものにしているようだ…。
この厳しい寒さの為に、この場所に連なるたくさんの湖のうちのいくつかは厚い氷に覆われてしまっていて、その上に白い雪が積もった湖面の前に立っても、その本当の水の色を窺い知る事は出来なかった。
実際、今の時期は入場できる湖の個数も限られたものであり、そのおかげで入場料が夏季の半分で済んでもいるのだが、その全貌を見られないというのは、やっぱり少し残念なものである。せめて、この曇り空さえ晴れてくれたら…なんて考えていたら、雲の切れ間に小さな青空が覗きだした。もしかしたら、午後は晴れるのかもしれない。
午前中、最後に2人が目にした湖は、本当に一瞬息が止まるくらいに鮮やかで透明な蒼色をしていた。雪景色の中に浮かぶ湖の周りには人の姿など全くなくて、辺りは完全な静寂に包まれ、そこでは鳥の鳴き声すら聴こえない。良く整備された木製の階段を下りた先にその湖面が姿を現したときは、何だか夢の中に迷い込んだような気分になった。
夏はたくさんの観光客がごったがえしているというような事がガイドブックに書かれていたから、今の時期のこの静寂の中で見る九塞溝というのには、それなりの“利点”があったんだと思う。雪が降るほどの寒さだからこっちもあまりゆっくりは立ち止まっていられないけど、国立公園にありがちな“テーマパーク的”雰囲気ではなく、本当の自然の姿に“似た”雰囲気を味わえたのが、何だか良かった。さて、陽が射してきて、気温が少しづつ上がってきた様だから、午後は園内バスを降りて、歩きながら湖を廻ってみようかな…。