「Too Much Pain。」
Toliara(トゥリアーラ)から、海岸線を北へMorombe(ムルンベ)に向かう。Taxi Brousseは前回Ifatyに行った時と同じ“トラック型”で、今回の運転手はやたらと飛ばすから、進むのが早いには早いんだけど…。
ガタガタの畦道をスピード出して突っ走るってことは、つまりそれだけ振動も強いって言う事で、今回の2人の場合を言えば、座った場所もまた、悪かった。
最後尾から2列目の、左側。「揺れ」という事を考える時、まず最前列が最も揺れにくいポジションとされていて、本当であればその付近を確保することが絶対的に必要だったのである。何せ今回の海岸線移動は、全15時間の行程が全てこの畦道一筋なんだから…。
本当は、昨日の夜の段階までは、この海岸線の悪路移動を決行しようなどとは考えていなかったのです。ここから先の最終目的地はMorondava(ムルンダヴァ)というバオバブ並木で有名な場所で、2人は既に「Toliara~Antsirabe~Morondava」というRoute7を主としたルートのTaxi Brousseチケットも購入していたのである。…それが、昨日の夜、ホテルのロビーでの事。ホテルのオーナーらしき白人男性がポツリと一言、「もしRoute7を通ってここまで来たんだったら、Morondavaまでは海岸線を行った方が面白いんじゃないかな。途中のMorombe(ムルンベ)もいい所だし、あそこのカニ料理は最高だよ(笑)。」
それを聞いて、ギリギリ今朝の段になってTaxi Brousseステーションでチケットの行き先変更を行い、わざわざ手間を掛けてまでこの“海岸線ルート”を選らんだわけだが、はっきりいってこれは2人にとっては“大失敗”な決断だったと思う。
とにかく、丸々15時間の行程の、全ての瞬間が辛くて、そして“痛かった”。
多分、今回の移動に際しては色々な悪い要素が全て重なってしまったんじゃないだろうか。それはスピードを出し過ぎる運転手であったり、あまりにも揺れる最後尾傍の席に座らされた事でもあるだろうし、その他にも多分、何かワケのわからない“黒い要素”が色々と混ざり合って、こういう大変な事態になってしまったんだと思う。
例えば、少し大きな窪みを車が突っ切ったりすると、ケツが30cmくらい宙に浮いてしまう。その際、運が悪いと低い天井に頭をぶつける事になり、天井は金属丸出しの“スケルトン仕様”だから、その痛みたるや半端じゃない。運よく頭をぶつけなかったにしても落ちた先のシートは“シート”というよりも“ベンチ”といった方がいい硬さで、一応見た目布張り風になってはいるのだが、それは数mmの本当に“布1枚”が被さっただけの“板”だから、ケツが宙から落ちた際の痛みは、想像以上のものなのである。更に悪い事に、このシート、板の縁取りとして鉄枠がまわしてあり、その鉄枠がシート板よりも出っ張っているゆえに、落ちた瞬間に腿を思いっきりこの鉄部にブツけることになるという何ともいえずFuckな代物。これを30分も続けていると次第に“痛さ”が“怖さ”に変わってきて、精神的にもやられ始める。そして、それだけ揺れる車内においては「上下動」のみならず「前後動」および「左右動」も相当なものだから、常に両手で前のシートにしがみつき、全身に力を入れた状態で振り落とされないように祈り続ける、ということになるのだ。
…こんな緊張状態が15時間続くんだから、身体がどうにもならない方が、オカシイってもんだろう。最終的には“残り1時間”という距離になってようやく前の席に移動できたが、既にその時点で身体の消耗は尋常じゃないレベルに達しており、今朝7:00過ぎにこの車に乗込んだ時の“健康体だった自分たち”の事が、はるか昔の夢のようにも感じられてくる始末である。…正直、死んでしまうんじゃないかと思った、ホントのホントに…。
PM9:00をまわったあとも、「もうすぐ着く」という喜びを感じる余裕すら無く、もうただひたすら「勘弁してください。お願い、勘弁して…。」と、2人とも声にならない声を出して呟いていたのです。
昨日、「最近お疲れ気味かも…。」なんて思っていたところに、追い打ちをかけるような、決定的クリティカルヒット。サッカーでいえば後半残り10分の時点で3点目のゴールを入れられてしまったような気分で、心の中では2人それぞれに、「もう、ダメかもしんない…。」と打ちひしがれた気持ちになっていたのでした。
PM10:00、バスは真っ暗な闇に包まれたMorombe(ムルンベ)の町に到着した。荷物係がチップをよこせと言っている声を後ろに聞きながら放心状態でホテルへと滑りこみ、ようやく辿りついた今夜のねぐらに汚れた荷物をドカリと降ろすと、そのまま倒れこむようにしてベッドの中へ潜り込む。…もう、1ミリも動けないです。この、身体の痛みと心の傷は、明日の朝になれば回復してくれるものなのだろうか…。