「キャンドル。」
土砂降りの後の、夕方。
宿のベランダから空を見上げると、こんな不思議な色合いが世界を包み込んでいた。
雨の日の雲の多い夕方時なんかに、たまにこういう奇妙な色をした不思議な空を見る事がある。世界が見たこともない色に染まって、何だか「終焉の日」を迎えたかのような、ちょっと、どことなく不吉な雰囲気。
映画「ロスト・チルドレン」の世界にでも迷い込んだような気分もある。
実はこの時、このホテル一帯は完全に停電状態に陥っていて、このベランダから周りのビルやマンションを見上げてもどこにも人工的な光を見つけることはできなかった。
あるのはただ、自然の光で染めあげられた、この、奇妙に黄色い世界のみ、である。
2人も部屋ではロウソクを使っていて、真っ暗な世界に灯るキャンドル・ライトを少し楽しんだりしていたのだが、その間にも外はこんな不思議な光に包まれていたなんて…。
広いベランダには雨水が溜まり、全体が薄い水溜りのような状態になっている。
日中、狂ったように降りしきった雨のせいで、2人の履いていた革靴と革サンダルはどうしようもないくらいに濡れてしまったのである。
因みにMの履いている靴は、アルゼンチンの伝統的(多分)な形の靴で、布で作られた白・黒・青なんかのものはスーパーなどでも安く売ってる。これは花柄の革で造られた品でそれらの布製よりは少し高いが、それでも60ペソ(1600円くらい)だったかな。
以外とどの服にも合わせやすくて、Mは勿論、Jもとても気に入ってる。それが、この雨で…、まったく。
それにしても、今日は朝からずっと、何だか奇妙な一日であった。
“初日”からこんな風で、明日には一体、どんな一日が待ち受けているんだろう…。