19 January, 09

「遅くなったけど。」

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パイネ国立公園、トレッキング生活2日目。
朝、凍えるような寒さで目を覚ますと、テントの外では冷たい雨が、森の上の灰色の空からシトシトと落ちてきていた。昨日の夜に降りだした雨が、今まで降り続いていたらしい。

今日はこの場所にテントを張ったまま、Glaciar(氷河)の右側面をもう少し奥まで歩いて行って、地図にあるMirador(展望スポット)から更に迫力ある氷河の姿を見てこようかと思っていたのだけれど…。
この、朝から降り続いていた雨のせいと、昨日の“初日歩き”の疲れがたたって、結局思っていたような時間には起きる事が出来ず、そのまま“2度寝”に突入してしまった。

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そんな気持ち良い眠りの最中にもテントに当たる雨の音が少し弱まってきたのに気付き、のそのそと寝袋から外へとはい出してみた時には、時計の針は既に10時を少し回ってしまっていたのである。昨日眠りについたのがやはり10時くらいだったから、ほぼ12時間くらい2人とも眠り続けていたということになる。まったく、山生活をしているとは思えないような“グウタラ”具合だなぁ…。
慌ててテントの外に出ると、テントの中で感じた以上に雨はほとんど降り止んでいるようだ。ガスに火をつけてナベでお湯を沸かし、朝食用に買ってきた粉スープを溶かしてアツアツのところをフハフハとホウロウのコーヒーカップですする。すると、体の中側から何だかポカポカと温まってきて、ようやく今日も歩いてやろうかという新たな元気が湧いてきたようだ。
それにしても、問題はこの時点で既にAM11:00 を過ぎてしまっているという事だ。
当初考えていたMiradorまで予定通りに歩こうと思ったら、地図的に見ても片道5~6時間はかかることになっているのである。そうなると、向こうについた時点で時刻は夕方近くなっているはずだし、その後このキャンプ場まで戻ってくること思うと…あまりにも動き出しが遅すぎたようだ。まぁ、それ以前に、この雨がちな天気を見た時点でそこまで動く気持は失せていたのだが…。
仕方がない、いきなりだけれど、今日は予定を少し変更して、ここから2時間くらいの距離にあるもう1つ奥の(つまり、よりグレイ氷河に近い)キャンプ場まで歩いてみよう。そこから先は、その時の天気やら時間次第で自由に決めて行けばいいんじゃないかな。
2日目にして、この妥協案…何だか先が思いやられるけど、それでも歩かないよりはマシか。
小雨の降る森の中、昨日脱いだままの状態で保存してあった靴下とブーツに履き替えると、Patagoniaのウィンドブレーカーをそれぞれ羽織ってキャンプ場からトレッキングルートへとゆっくり足を踏み出した。
上空には厚くて黒い雨雲がどこまでも続いているように見えるけれど、歩くにつれて雨はほとんど感じないほどに止んできている。最初は少し重かった足取りも、その天気の回復と同じくして徐々に調子が上がってきたようだ。

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少し歩くと、崖のように落ち込んだ坂の下に山の上から細い川が流れてきているのにぶつかった。昨日から降り続いた雨の影響だろうか、流れはかなり荒れていて、濁流が大きな岩にぶつかりながら、かなりの勢いでグレイ湖の方へと流れていっているようである。
「通常は、このあたりの石を歩きながら川を越えるんだろうなぁ…」という感じの大きめな石たちも、その濁流にすっかり飲みこまれてしまっていて、足を濡らさずに歩けるところはどうやら無さそうな状態。さて、どうやってここを越えようかと2人でしばし考えあぐねていると…対面から来た老夫婦が、何の迷いもなくその流れの中におもむろに足を踏み出していったではないですか。水の中に入って靴や靴下を濡らすことなんて、全く意にも介していない様子。そうか、結局、トレッキングとはそういう事であったか…。
2人もこれで迷いがふっきれ、比較的浅めな場所を選ぶと、そのまま水の中へとブーツで固めた足を踏み出した。しかし、いざそうやって踏み出してみると2人が履くブーツの保護力はなかなか威力が絶大なようで、向こう岸まで無事に渡りきった所で1息つき、濡れ具合を確認してみるとほとんど靴内には水が入ってきていなかったのである。

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やっぱり今までの“運動靴”とは造りが全然違うんだなぁ。そんなお互いの靴に対して最大限の賛辞を送りつつ、2人は更に勢いを早めてその先の道を歩き続けた。

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そうして、地図に記入されている通りの“所要2時間”を経過する頃…目の前の森の木々の向こう側に、大小様々な形のテントが織りなすカラフルな色彩が、ちらりほらりと見え始めてきた。目的の場所付近まで順調に歩いてくることができたようだ。そのままキャンプサイトへと入ると、通りの脇に「Mirador →(こちら)」的な矢印マークが出ている。そうか、この辺りにもちゃんとそれなりのMiradorがあるんだな。
とりあえず、うん、とりあえずね…というような気持でその場所へと足を運んでみると、そこはちょうど氷河と湖が接する境目、その真横に位置する高台なのであった。
これはなかなか、スゴイ眺めだ。雲も朝から比べると随分薄くなってきており、時折その向こう側に青空が顔を覗かせ始めている。そんな空から降り注ぐやわらかい光を受けて、巨大な氷の塊である“Glaciar Grey”は何だかキラキラと輝いているようだ。
これより更に先まで歩いたら、もっと凄い景色がまってるのかなぁ…。
時刻はもうすぐ2時。これから更に先まで歩くのか、それとも…。。。考えている間にJが先へと歩き進め、Mがしぶしぶそれについて歩き始める。そんな風に、一度はもっと先を見に進んでいこうかと動きだしたのだが、すぐ先の斜面にさっきよりも危険な香り漂う灰色の“濁流”が姿を現し、それを目にした事によって、2人の中に芽生えた「先へ。」という“ささやかな”勢いは完全にそがれてしまったのであった。

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結局そのまま先ほどのMiradorまで戻り、そこで“Coffee Time”をとることに。この頃には完全に空は晴れ始めていて、太陽が雲の切れ間から見え隠れしている。
空気も徐々に暖まってきて、絶好のピクニック日和という感じ。リュックの中に入れてきたガスバーナーに火をつけて、ホウロウコップに入れた水をそのまま直に暖め始める。

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そして、Nescafeの粉コーヒーをそのお湯の中に溶かして飲むと、インスタントなそのコーヒーが、何よりも贅沢な1品になってしまうのである。
だって、このロケーションだもん。それだけでCoffeeの美味しいことったら、ないです。

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目の前に迫る氷河を写真におさめていると、後から数人のトレッカーが同じようにカメラを構え出し、お互いに「すごい景色だよね」っていう感じで顔を見合わせてみたり。
それでもこんなハイシーズンにこれだけの場所に来ているというのに、行き交う人々の人数を思うと、これは本当に少ない感じがしてしまう。
それが更に静かな気持ちで自然と対峙させてくれることにもなっていて、とにかく終始、穏やかな気持ちでこの大自然と向き合えるのがとても良い。

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1時間、いや、2時間くらいそうしてその場でとどまっていただろうか。
風がヒンヤリと冷たく感じられ始めたのを契機に、突風に気を付けながら道具をバックの中に仕舞うと、元来た道をキャンプへ向けて帰り始めたのであった。
夕方7時前に、朝出発してきたキャンプ地へと到着。テントも荷物も、無事にその場で2人を待っていてくれていた。
夜飯はインスタントラーメンで、キャンプの受付で買ってきた卵を落として食べた。ビールも1缶買ってきて、2人でそいつをあっという間にやっつけてしまった。
PM10:00就寝。期せずして、昨日の就寝と同じ時刻だ。
世界はまだ、日暮れあとの“薄明り”の中にあり、テントの布を通して入ってきたその光が室内を柔らかく包み込んでいる。
明日は荷物を持っての移動だ。うまく晴れるといいのだけれど…。

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