31 January, 09

「Otra Vez。」

chal2%2000.jpg


岩場の氷河から戻る道で、午後の予定について考えていた。
天気もすっかり良くなっているし、予定通りにTorre湖の方へと向かう事も可能だろう。
なんだけれど…。

どうも、目の前にそびえ立つ“フィッツロイ”が気になってしょうがない。

chal2%2001.jpg

この時間帯になると、空は昨日にも増して雲ひとつない青空になっていて、その向こうに見えるチャル様の姿も一段と貫禄を帯びているように見える。
ここに来たのは、あくまでこの“フィッツロイ”を見るためであったのだから、どうせならもう、何度だって、見たいだけこの山の姿を拝んでおいた方がいいんじゃないか…。
とはいえ、昨日登った“Laguna de los Torres”までの道のりは、正直、今の2人の膝にはかなり負担が掛かる急斜面で、それこそ昨日そこから降りてくる帰り道の途中に
「こんなシンドイ急斜面、向こう1年間はもう登りたくないッス…。」
みたいな話を2人で何度もしていたのである。

chal2%2002.jpg

にもかかわらず、1夜明けただけの今日、またあそこに登ってやろうかという気持ちになってきているのが、考えてみると自分たち自身にも信じられない感じがする。
でも、とにかく、やはりどうしても、もう一度あの感動的な風景を、この目でしっかりと見て心の中に焼きつけておきたい。しかも、なにせ今日はこんなにも晴れ渡った絶好の“チャル様日和”なんだから…。
2人の気持ちが一致したところで、午後はあのミラドールにもう一度登る事に決定!?
こういう気持ち、なんて表現したらいいんだろう。辛いと分かっている道程を、あえて登りたいと思う、この気分。しかもそこは、昨日既に登った場所なのである。
昨日、「1年間は登りたくない」と言っていた心も本当であるはずなのに、それでも何故、あえて登るのか…それを考えて、更に考えてみると、やはり結局はあの言葉が一番しっくりくるのかもしれないと思った。
「そこに、山があるから…。」

chal2%2003.jpg

こんな1時間そこそこの山登りで使う言葉じゃないかもしれないけど、そこへ向かおうとするこの気持ちを表すのには、これが最もしっくりくる表現である気がするのである。
そんな気持ちで、見知った坂道を登り続ける。
時刻は既に、3時過ぎだ。昨日よりは少し早い時間帯だが、午前中から登っている人もたくさんいるから、正面から降りてくる人々と何度も何度もすれ違う。
「今日は、上の展望は最高だよ(笑)。」
そんな言葉をかけられながら、昨日よりも馴れた足取りで1歩1歩坂道を登っていくのである。今日の方が疲れはあるが、今日の方が足取りは“こなれて”いる気がする。
とにかく、立ち止まらずに進んでいれば、小さな1歩でも確実に、少しづつ目的地が近付いているんだという事を知っているから…。
そして、遂に今日も、砂利の平原へとたどり着いた。

chal2%2004.jpg

山々の周囲にはほとんど雲がなく、真っ青な空を背景にして、その山々の稜線がくっきりと静かに浮かんでいる。
これはどうにも、美しすぎる。
昨日の感動が、もう一回り大きくなって心の内側に迫ってくる。
何度見ても、これはやはり凄い風景だ。何がこんなにも“迫って”くるのか、一言では表現できないが、結局、この「デカさ」であり、「色」であり、「カタチ」であり、つまるところ、大自然の「チカラ」というようなものが、自分たちの想像の枠をはるかに超えたところでこの世界に存在しているんだという事に、圧倒的な迫力をもってガツンと気付かされるから、なのだろう。
人の数は、昨日よりも随分と少ないみたいだ。砂利の斜面を登り切ったあと、閑散とした岩山の上から目の前のチャル様(フィッツロイ)に見惚れていると、ふと横から聞いた事のある声で呼びかけられたのに気が付いた。

chal2%2005.jpg

振り返ると、そこにいたのはパイネの山中やプエルトナタレスで何度も出会っていたオーストリア人の「クリス」であった。
更にその横に座っている赤T-shirtのおっさんも、どうやらクリスがパイネのトレック中に知り合った人であるらしい。みんなバラバラに旅しているのに、たどり着くところは結局一緒なのである。そして、こんな快晴の空の下でこの壮大な風景を見る事が出来たのだがら、ここにいるこのメンバーは、みな非常に“ラッキーな”星を持っているのだろう(笑)。
眼下に蒼い水をたたえる“Laguna de los Torres”は雲ひとつない空の光を受けて、昨日にも劣らずキラキラと綺麗に輝いている。

chal2%2006.jpg

ふと後ろを振り返ってみても、やはり空にはほとんど雲がなく、青くて澄んだ空気が辺りを包み込んでいるのである。風もなく、聴こえてくる音もほとんど、ない。
そう、今日は昨日のように風が吹きすさんでいるような事もなく、影のほとんど射さない岩の上に腰かけていると暖かいどころか、暑くて、熱くて、ジッとしていられないくらいなのだ。

chal2%2007.jpg

それでも湿気があるわけじゃないから肌を隠して“熱さ”を防ぎつつ、結局その場で2時間以上、空と山の姿だけを2人で一緒に眺め続けていた。
6時を過ぎたあたりで、太陽が傾き、逆光の中で山を見るのが難しくなってきた。
腹が空いてきたこともあり、よいしょっと立ち上がると、これで山を降りる事にした。
2日間、しっかり、ばっちり“チャル様”を満喫する事が出来て、もう思い残すことはない、っていうくらいの充実した気持ちだ。

chal2%2008.jpg

降りる時には後ろはほとんど振り向かず、昨日よりも少し早い時間にキャンプサイトに到着する事が出来た。昨日と同じ河原の“食堂”で、パスタをつくり、夕食を食べる。
日差しはまだ、山の向こうから2人のことを照りつけていて、そちらを向いて食べる事も出来ない。しかし、ポカポカと暖かくて、とても穏やかな夕方である。
明日はいよいよ、El Chaltenの町へと“下山”する日だ…。

chal2%2009.jpg

因みに、「Otra Vez(オートラ ベス)」はスペイン語で「もう一回」の意味です。

コメントを投稿





コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。