31 January, 09

「Ice Cola。」

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目を覚ましたのは、AM8:00も近くなった頃。
トイレに行くために寝袋から這い出し、テントの外に出てみると、辺りの空気はまだ“朝の冷気”に包まれたままであった。

この寒さで“夏真っ盛り”だとは、到底考えられないような寒さだ。ダウンジャケットを着込んだ上からなお、氷のような冷たい空気が染み入ってくる。

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震えながらトイレを済ませ、テントに戻ってガスに火を付ける。パイネ以来いつもかわらぬ、朝のスープとコーヒーを作るのだ。今回は町で大量にパンを購入してきているから、毎食のパスタやスープと共に、そいつを一緒にかじれるのが嬉しい。

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こういう質素な食生活では、味はともかく、腹が膨れるくらいに食べられるって事がとても重要で、それが1日の“やる気”につながってくるような気がする。
周囲のテントでも、徐々に飯を作り始めたようだ。みなそれ程朝が早くないのは、この辺りのポピュラーなトレッキングルートが、どれも片道2~3時間で歩き切れるような「お手軽」なものであるからかもしれない。
2人は今日は「トーレ湖」という湖まで歩いてトーレ山を眺めてこようと思っていたのだが、そちらの方を眺めてみると、どうもあやしい雲が広がってきているようである。
逆に昨日行った“チャル様”方面の空は晴れ渡っており、今日もフィッツロイ山系の山々が美しくその姿を見せてくれている。そんな空模様を見て、急きょ今日1日の予定を変更。
まずは晴れた空側にある近場の氷河「Piedras Blancas」に行ってみて、その後の気分で午後の予定を決めようという事にしたのであった。
今日も1日山の中を歩きまわる事になるからと、出発前にキャンプサイトで入念に準備運動。そして、そうしている2人の眼の前にもやはり、フィッツロイ山がその鋭角な山頂を空に向かって突き出しているのが見えているのである。
小さなリュックに今日の分の荷物だけを入れると、まずはそんな山々の姿が更によく見える広場の方へと移動した。今日も気持ち良くその姿を見せてくれている山に向かって2人で交互にお礼とお祈りをして、そこからいざ、午前中の氷河見学へとようやく出かけたのであった。

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道はキャンプ地の傍を流れるRio Blancoという川沿いに伸びていて、それは道といっても単なる岩だらけの河原というような場所でもあり、道標らしきものがほとんどないものだから2人とも途中途中で「あっちかなぁ、いや、こっちかも…。」なんて試行錯誤をくりかえしつつ、ゆっくりゆっくりと進んでいくことに。
30分、いや、40分程そうして不安げに川下へ向って足を運んでいくと、サイドの山から流れ込む、少し大きめな川に突き当たった。地図に書かれている感じからいけば、この川を登ったその上に目指す氷河と湖があるはずなのである。

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しかし…なんていう“自然そのまま”な道程なんだろうか。登るべき川の両サイドには数メートルから数十メートルもある巨大な岩がゴロゴロしていて、その向こうへと進もうと思ったらそいつを“クライミング”しながら越えていくしかない状態だ。
そんな道なき道の中でも比較的通りやすそうなところを探していくと、そういう道筋のところどころに前人たちが積んでいった石の塔が“鏡餅”のような形をして並んでいるのに気が付いた。やはり、道はこれで合っているのだ。合っているのだが、それにしても…。

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何度も「ここでもう、いい事にしよっか…。」なんて弱音を吐くMを勇気づけつつ、何とかそのデカ過ぎる岩場を2人一緒に見事クリアーしたのであった。
登り切った場所で2人が見たのは、山肌に貼り付く様に広がる氷河の迫力ある姿と、その手前に広がるグレーがかった色の湖。そして、その湖に浮かぶ無数の“流氷”たちである。
流氷は山肌に貼り付いた氷河の先端部分が崩れて湖に落ちたものであり、こうして見ている間にも小さな落氷が何度もあった。
そんな、剥き出しの自然に対峙したシチュエーションの中、湖畔の水際にある平らな岩に座って、持ってきたランチをここで食べる事にした。
町のパン屋で買ってきた胚芽パン風の“チリパン”に、別に持ってきたクリームチーズとサラミをその場で入れる。サラミは丸のままの“ソーセージ型”のをナイフで切って載せていくのだが、太めに切ったサラミがいかにも豪快で、こういう自然の中ではとても良い。

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ガスとコーヒーも持ってきたが、その前にとりあえず、缶で買ってきたコーラを飲むことにした。今日も昨日に負けないくらいに日差しが熱くて、ここまで登ってくる間に2人とも喉がからからになってしまっていた。
ホウロウカップに湖に浮かぶ氷河のキレイな欠片をガッツリと入れ、その上からコーラを注ぐと、いかにも冷たそうなその様子が見るからに美味そうである。
まず、1口…うん、美味い!
これもまた、最高に贅沢なコーラの飲み方だなぁと思う。
そんな風にして水際ギリギリの岩の上で気持ちの良いランチタイムを過ごしていると、不意に湖面がフワリと揺れたような気がした。
さっきまで波なんか全くなかったから、おかしいなぁと思ったその直後…
「やばい!!」
そういって荷物片手にMが飛び上がったかと思うと、真横にある湖の水が大きなうねりとなって岩の上に押し寄せてきたのである!?
「お、おぉっ、何だなんだ!??」一瞬遅れて、Jも上側の岩へと逃げる。ギリギリのタイミングで波をかぶらずに済んだものの、本当に、間一髪というところであった。
何が起こったのか、その後2人で色々と考えたのだが、そういえばその波が来る数分前に、山の向こうで大きな氷河が崩れるような音がしていた。目の前の氷河は何ともなかったから山の向こう側だろうと思われたが、その、向こう側で氷河が落ちた湖(たぶん)と、こちら側の湖が洞窟か何かでつながっていて、向こうの落氷の影響が時間差でここまできたのじゃないだろうかという結論に達したのである。
全てはあくまで「推測」でしかないが、そうとしか考えようがない。
その後、こちら側の湖の上を漂う氷河は波でゆらゆらと動かされていたが、そんな湖面も数分後にはまた落ち付き、最初と同じ静寂に包まれたのであった。

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コーヒーも沸かしつつ結局1時間半以上その場でランチを楽しんでいたが、その間に他の人がここへ来たのは、たったの1人だけ。
かわりに山の上のデッカイ氷河崩れやコンドルの飛行風景など様々な種類の“自然”の姿に遭遇して、とても素敵なピクニックをゆっくりと楽しむことが出来た。
帰りは、行きの反省を踏まえながらより良いルートを通って川下へ。その、自分たちが思う最良ルートに新たな石の“鏡餅”をこしらえつつ、レンズ雲が浮かぶパタゴニアの空の下を再び歩き始めたのであった…。

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