30 January, 09

「El Chalten/Fitz Roy。」

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目の前のそびえ立つ山々の神々しい姿に、「あぁ…。」と声にならないような声を出して、そのままその場に立ちつくしてしまった…。

キャンプサイト「Poincenot」を出発したのは、4時になろうかという時間だっただろうか。日差しは相変わらず強くて、木々の蔭に隠れられないような道を歩くと、首筋がジリジリと焦がされているように感じるくらいだ。
Poincenotの先にはいくつかの清流が流れており、河原では他のトレッカーたちが寝そべって、日向ぼっこを楽しんでいる。そんな彼らの中の1人が、川にかかる丸太の橋の上に歩み寄ってきた…かと思うと、その上から首を川の水へと伸ばして、直にガブガブと流れる水を飲み始めたのである。その、透き通った冷たい川の水を飲む彼の顔は、本当に心から気持ち良さそうに見える。そうだよね、やっぱ、そうやっちゃいたいよねぇ(笑)。

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前回トレッキングをしたパイネ国立公園と同じで、この辺りの川を流れる水はどこも「安心して飲むことが出来る」という事になっている。その環境を守るために“公園内での振舞い方あれこれ”が町で観光客に対してレクチャーされるのであり、ゴミや汚物を誰も流していないという信頼の上に、この楽園のような状況が成り立っているのである。
2人もその信頼の上に立って、Patagoniaの国立公園ではもう、ガブのみ状態で自然の水を飲んでしまっているが、今のところまだ“おなかを壊す”ということはない。
それはここ“El Chalten”でも変わらず、だが、ここの水はパイネのそれよりも少し泥臭い味がするような気もする。成分の違いだろうか…。
そんな清流をいくつか渡ると、その向こうの林の中に、登山家専用のキャンプサイト「Rio Blanco」が見えてきた。ここはフィッツロイ山系の山々に挑む本格的な“登山家”たちがテントを張るサイトになっていて、中央には丸太造りの食事小屋があり、
「この中で、夜な夜なクライマーたちのディープな情報交換が行われているんだろうなぁ。」
と、感じさせるような“風格”が漂っている。

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そんなキャンプサイトを過ぎると、そこから先は、かなりきつい(急な)上り坂である。
急斜面の上に、滑り易い砂利道だから、慎重に1歩1歩、足を運ぶことが要求される。
距離的には「1時間」の目安であるからそれ程長い道のりではないが、とにかくやたらと“急”なものだから、少し登るだけですぐに息が切れるのである。
息が切れては休憩をして、すぐに再び登り始める。
「何でこんな苦しい思いをして、こんな急な坂道登ってるんだろう…。」
なんて、不意に疑問を感じる事もあるけれど、とにかく1歩を着実に前に踏み出していれば、遅くても少しづつ“目的地”に向かって確実に近づいていくのだ。
そして、それを実感するたびに、山登りの面白さや魅力に改めて気付かされるような気持になる。こういうのを人生の歩みと結びつけてみたりする人々の言い分にも、何となく「分かる」と思えるような、そんな感じ。小さくても常に“1歩”を踏み出し続けること、ここでは、それが重要なのだ。
さっきも言った通り、予定所要時間は、1時間。
その時間にそろそろ近づいてきたなという頃になって、目の前に立ちふさがっていた急な坂道が不意に姿を消し、眼前に巨大な大自然の「威容」が姿を現した。

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Fitz Roy山系の、山々の連なりである。
その裾野へと続く岩や砂利の転がった平原の上で、頼りないくらいに小さな人影が、“その向こうの湖”を目指して歩いているのが見えている。

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2人もその、小さな“人々の流れ”を追いかけて、目の前の砂利道を掛け上り始めた。
空にはパタゴニア特有のレンズ雲が気持ち良く浮かび、山の上の済んだ空気がヒンヤリと身体に沁み込んでくる。高度が上がった分だけ、やはり少し寒くなってきたみたいだ。

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透きとおるような冷たい空気の中で、Bagの中にしまっていた上着を羽織り、最後の緩やかな砂利の坂道を登り切って、てっぺんの岩の上からその“向こう側”を覗きこむと…
そこにあるのは、光輝く青緑色の湖の姿、そして、その向こうに“そそり立つ”フィッツロイとその周辺の山々の姿。
この、最後に現れてきた風景を見た時の“感じ”は、その場に来てみないと、結局のところは分からないものなのかもしれない。

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表現する事を放棄するつもりではないのだけれど、あの感じ…とにかく、何とも“特別な気持ち”になるということは確かだ。
最初の1文で“神々しい”という言葉を使ったけれど、そういう、自分の届く範囲とは別の次元の力を感じるような、ここはそんな風景だ、と思った。
しばらくはその場を動けずに、2人とも言葉なくその“風景”を眺め続ける。
風がつよく、雲の流れが速い。そんな雲の動きに合わせて太陽も“出たり隠れたり”を繰り返しているのだが、顔を出した陽の光が大地にさしてきた時には、静かな青緑色した湖の水が、今まで見た事もないくらいにキラキラと光輝くのである。

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その“キラキラ”に吸い寄せられるようにして湖に近づいていくと、ゆっくりとした歩調で2人はその湖畔を歩き始めた。
湖の左側を山の方へと歩いて行くと、向こう側に少し落ち込んだ“崖”があって、横にある湖の水が滝になって流れおちている。そしてその下には、また新たな湖の姿、だ。
ここもまた、風がやたらと強くて、冷たい。
ゆっくりと眺めていたいような風景だが、あまりに寒くて留まっていられず…。

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湖畔の道を再び戻ると、フィッツロイ山系の山々の正面、そこにある高台から、改めてその複雑な稜線の“シェイプ”を観察し始めた。

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上空に浮かんでいたでっかい太陽は、知らない間にどんどんと山の向こう側へ向って傾いていっていて、まさに「後光が射す」とでも言いたくなるような神秘的な風景になってきている。ちょっと、“宗教的な気配”すら漂ってきそうな、圧倒的な風景だ。
それでもずっと眺め続けていると、次第にその風景が感覚的に“馴染んでくる”というか…気持がスッと落ち付いてきて、そういう大自然の中にいる事が、とても心地よく感じられるようになる。
何か、ガスとコーヒーでも持ってきとけば良かったなぁ(笑)。
チョコバーをかじりながら、2人でそんな風に思っていた。こういう場所に来て、「山を見たから、じゃぁ降りましょう。」的な、“いそいそとした気分”にはなりたくないものだ。
そういう意味でも、今回、日帰りではなく「キャンプ」という形でこの場所を訪れて、本当に良かったなぁと思った。
今日の「家」は、1時間ほど坂を下った、すぐ傍の“麓”にあるのである。
夕方、寒さが増してくるまでその場所でゆっくりと過ごし、陽が落ち切って道が暗くなってしまう前に山を降りて、キャンプに戻った。
とはいえキャンプサイトの傍からでも、「チャル様」はしっかりと見えているのだ。

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川の水を使ってお湯を沸かし、インスタントのパスタを作る。その間も、常に目の前には夕日に染まった山々の風景と、キレイな水と、「チャル様」がある(笑)。
そんな、とても贅沢な、“山の雪解け水が流れる河原”でのディナーを楽しんで、今日も素敵な1日を締めくくったのでした。

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