22 January, 09

「Cold Water。」

paine5%2000.jpg


パイネ国立公園、トレッキング生活5日目。
昨日の夜、夕食を食べ終えてテントに入った瞬間にポツポツとではあるが“雨”が降り出してきたのに気が付いた。その後もシトシトと静かに雨は降り続け、早朝、便意を覚えて外に出た時も小雨がパラついているのを確認してはいたのだが…。

目覚ましをセットしていた7時を目前に控えた頃になって、不意に目覚めと外の大気が急に荒れだしている事に気が付いた。
とにかく、ものすごい“風”が吹き荒れているのが分かる。テントの布が怖いくらいの勢いで揺れ動き、今にも吹き飛ばされそうに見える。実際、それもあながち間違ってはいなかったらしく、数分もすると地面に指していたはずのテントの杭がバンバン外れてきてしまったのである!?こうなるとテントはただの布きれでしかなく、右へ左へとまさに“風任せ”な状態でブォンブォン暴れまくるのみだ。
早朝の“小雨がパラついていた”時点では、
「雨の中でテントをしまうのも億劫だし、もしこれが止まなかったらそのままここにもう1泊しちゃおうか…キャンプが6泊7日になったって、食料的には何とかなりそうだし。」
何て府抜けた事を考えていたのだが、こうなるともう、強制的にテントを撤収するしかなくなってしまったのである。暴れるテントの中で何とか服を「外仕様」に着替え、まずは外れた杭を固定しようとJがテントの外に飛び出した。すると…

paine5%2002.jpg

さっきまで降り続いていたと思った雨はいつの間にやら上がっていて、風が吹きすさぶ湖畔の風景の向こう側には、キレイな青空と7色の虹の姿がくっきりと浮かび上がっていたのである。なんてこった、結局“荒れている”のはこのテントの周りだけじゃないか…。
風のおかげで、府抜けた心をすっかり覚まされてしまった感じだ。
しょうがない、予定通りの長い道程を、今日も元気に歩き始めますか!
気持ちを締め直して、風の中で必死にまとめた荷物を担ぐと、気持が緩んでしまわない内にすぐに“出発”することにした。

paine5%2001.jpg

今日の最初の目的地である「Campamento Chileno」までは、距離にして12~13km、時間にすると約6時間ほどの道のりである。全体にはそれ程起伏のないルートだとはいえ、最後にはかなりスティープ(急)な登り坂が待ち受けているらしい。
ありったけのオヤツを“戦闘態勢”にしてはおいたが、ここまでの4日間の疲れも溜まってきているから、いつもより休憩の数がやたらと多くなってた気がする。
そんな疲れたからだとは逆に、天気はみるみる回復していって、歩き始めて1時間後くらいには暑すぎるくらいの陽気になってきた。

paine5%2003.jpg

朝着こんでいたウィンドブレーカーも早々に脱ぎ棄て、小川を降りすぎる度に飲み水をそこで補給しながら“灼熱の”湖畔の道をひたすら東へ歩き続ける。
すると、何本目かに行き当たった幅の広い大きな川が、どうにもならないくらいに氾濫してしまっているのに遭遇した。
石の河原を流れる川は、いくつもの中州をつくりながら何本もの流れを作り出しており、そのどれもが結構深くて“石づたい”に飛び越えられるような状態じゃない。
多分普段はもっと静かな川なのだろう、意図的に“橋”がかけられている様子もないから、ここを通り抜けようと思ったら、とにかく川に“入る”しかなさそうだ…。

paine5%2004.jpg

流れのこちら側でどうしようかと思案している内にも、こちら側やあちら側から次々に別のトレッカーたちが現れてくる。彼らはどうやってここを渡るのか…
しばらく様子を静観していると、どうやら下流の方の一部に、何とか膝上くらいの浸かり方で渡れる箇所があるらしい事が分かってきた。
その近くで、別の西洋人たちの“渡り”を見ていると、靴と靴下を完全に脱いでしまって、そいつをバックパックにくくりつけた後、裸足で渡っているのが見えた。
そうか、そういう手もあったか…。この暑さだし、そうして川に足を付けている姿は、ある意味「涼やか」な風景にも見える。靴や靴下も濡らさずに済むし、とにかく何だかとっても気持が良さそうだ。よし、決めた!あれでいこう!!
とはいえ、Mは川底の状態が不安な事もあるし、手前の川で石に飛び移り損ねて靴ごと水中に沈していたため、この時点で既に足元はビチョヌレ状態。もう一度川に入ろうが関係ないからと、靴は脱がずにそのまま行くというのである。なので、結局Jだけがその場で靴と靴下を脱ぎ、いざ、その川へと突入していくことになったのだ。

paine5%2005.jpg

深さがそれほどないとはいえ、川の流れはここでもかなり急だ。お互いの身を守るため、手をつないだ状態で一緒に渡る作戦をとった。前に立って進むのは、Jである。
とにかくここは、進むしかないのだ。意を決して水の中へと突入していった、その途端に、水の“冷たさ”がとにかく半端じゃないという事に気が付いてしまった。
先に温度を確かめておけばよかったのに、流れの強さばかりに気を取られてそちらの方に気が回らなかったのだが、これはどうにも、冷た過ぎる。
「やばい、このまま浸かり続けていたら、俺の両足“死んじゃう”かもしんない…。」
そんな驚異を感じたJは、Mの手を取っているにもかかわらず歩みの速度を調整する事が出来ず、Mをひっぱるような勢いでとにかく対岸を目指して“走った”!?
そして、何とか向こう岸の石の上へとよじ登ってしまうと、外に出たとたんにジンジンと痛み始める両足の感覚に、思わず「ウォ~!!」と叫んでしまったくらいである。
冷たい、いや、痛い!!痛って~ッ!!
こんなに水が冷たいだなんて、この太陽の日差しの中では全く考えもしていなかった。
靴で入ったMにしても、やはり相当冷たかったらしく、水から上がった途端に2人とも殺気だっていたような気がする。なぜか、お互い一触即発の雰囲気。どちらのせいでもない、結局のところ、水のせいではあるんだけど…。
座り易い岩場を探して、とりあえず濡れた靴と靴下を脱ぐM。 
Jの靴下も事前の“試行錯誤”の際に少し濡れてしまっていたから、お互い自分の靴下を太陽に熱されたアツアツの石の上に置いて、しばらくの間そいつを乾かしながら“ついでに”休憩する事にした。
河原でこうして休んでいる分には、何とも「ピクニック気分」の漂うとても気持ちの良い場所である。熱い日差しと冷たい水、時折吹く風の、その組み合わせが絶妙な感じだ。
しばらくそこでのんびりしながら他の人の“渡り”を写真にとったりしていたのだが、ふと振り向くと、すぐ傍の石の上に干しておいたはずのJの靴下が、その場所に無いって事に気が付いた。あれっ、おかしいな…。

paine5%2006.jpg

風でその辺に飛ばされたのだろうと軽い気持ちで探し始めたのだが、近場にはまったく落ちている気配がない。少し範囲を広げて川下の方を歩いて行ってみると…あっ、あった!
片方だけが、大きな石の蔭に隠れて落ちているのを発見。きっともう片方も同じ方向に飛ばされたハズだから、この辺りにあるとは思うのだけれど…。しかし、2人でどれだけ探してみても、もう片方は一向に見つかる気配がない。その後もかなり捜索範囲を広げながら、「こんなとこまで飛ばされる事はないだろうけど…」っていうような場所まで探しまわったが、結局は全くどこにも見つからないのである。
一体これは、どういうことなんだ…せっかく苦労して川を渡りきったってのに、全然関係ない所で妙に足止めをくらってっしまってるじゃないか…。
イライラしてくるJに向かって、Mが
「あの林の向こう側とかに、思いっきり飛ばされちゃったりしてるんじゃない!??」
との新たな言葉を投げかけてきた。
確かに河原の端には少し高めの木々が並ぶ林があって、その向こうには緑の草原のようなスペースがある。あそこまで飛ばされるって事になったら、あの木を越えるくらいの高さまで上がらないといけないって事でしょ。いくらなんでも、それは…。
Mの言葉を本気で信じたわけじゃなかったが、それでも他に探す場所もなく、一応最後に、って気持ちでそちらの方へと茂みをかき分け入っていくと…なんとその向こう側の緑の草原のまん真ん中に、黒い見慣れた物体が転がってるのが見えたのである。
えっ、ホントに!!?驚きながらも、慌ててその傍に駆け寄るJ。…やっぱりそうだ。
「あった、あったよ、靴下!!」
Mに急いで報告すると、ようやく安心した顔に戻ったみたい。ご心配をお掛けしました…。
それにしても、本当に“風”でこんなところまで飛ばされてしまったのか!?にわかには信じられないくらいの距離である。確かに突風が時折吹いていたが、まさかそれがこれ程の威力を持ってるなんて…何なら、その瞬間をしっかり見ていたかった気がするくらいだ。
とにかく無事に、靴と靴下が全て揃った。あんまりゆっくりな休息にはならなかったけど、とにかく再度、ここから“仕切り直し”である。
どこまでも晴れ渡る草原の中、目的地目指して歩く続けるJとM。
景色はますます雄大になってきており、背の高い木々は徐々に姿を消して、まさに「草原」という言葉がふさわしいような、だだっ広い大地に変貌してきている。
何だなんだ、これは一体、どこなんだ、まったく。
パタゴニアの大自然に、ちっぽけな自分たちが包み込まれていくような気分だ。

paine5%2007.jpg

そんな大地を2時間くらい歩き続けたあとに、特に景色のよい丘の上で再度気持のよい休憩をとる。最後のチョコバーをポケットから取り出して、そいつをかじりながらの優雅なティータイムだ。優雅なのは勿論チョコバーの事ではなく、この大地のど真ん中でのんびりと寝そべっている、この素晴らしいひと時が、である。
ここからは目的のキャンプ地まで残りあと、2時間くらい。時間はまだまだたっぷりあるから、とにかくゆっくり、どうせだからどこまでも“優雅”に行きましょうかねぇ…。

コメントを投稿





コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。