「Through the River 。」
目の前の湖に横づけされたボートに乗り込むと、歩きだと20分程かかるはずの向こう岸までの距離を5分もかからずに渡りきってしまう。
時間が大幅にずれているため、ショートカットをしたということらしい。
そこに流れ落ちる滝の上までは階段を昇りながら徒歩で進んでいき、滝の上流数十mほどのところから再び別のボートに乗って川の上を移動し始めるのだ。
空は穏やかに晴れ渡っているが、進んでいく先の方に目を向けると少しどんよりとした雰囲気の鼠色した雲が見えている。
とはいえ真上に広がる空はクッキリと晴れ渡っているだけに、屋根のないボートの上は思いっきり太陽に照りつけられているのである。暑い(熱い)…。
そんなことを思っていたところ、ボートがいきなり前からの波をもろに受けて、ドバシャっと大きな水しぶきを被ったのである。2人とも、全身びしょ濡れ。それを見て、ガイドのガブちゃんは大はしゃぎしている!?
熱されていた身体が一気に冷やされ、ボートが切る風の温度が急に冷たく感じられて来た。
今度は、寒い…。
まったく忙しいボート旅である。
この為に“水着&ビーサン着用”を勧められていたんだと、2人ともに納得する。
靴なんか履いてきていたら、すぐにビッショリと濡れてグチョグチョになるところだ。
手持ち荷物は出発時に全て黒いビニール袋に入れられて、舟の後ろに積み込んであるのだが、見ていると袋の上からバシャバシャと大量の水を浴びまくっている様子。きっちりと口のところを縛っておいて良かった…。
(因みに現地のトレッキングではやはり靴の方が歩きやすいので、手持ちで持参が必要。)
その後も何度となく波ビッショリ攻撃にあいながらボートは上流へと進んでいき、それに従って空の方は次第に雲が多くなってきてしまった。
太陽の熱がなくなってしまうと、濡れた身体が冷たい風だけを受ける事になって、より一層感じる寒さが増してきた。腕を見ると、びっしりと”サブいぼ”が浮き上がっている。
しかし、そんな寒さにも耐えられるのは、周りの景色が凄まじくスゴイことになってきているからだろう。林立するテーブルマウンテンはその巨大な姿で見るものを圧倒し、時折岩間から流れおちる小さな滝や生い茂る緑が、2人に太古の世界を想像させる。
何処か全く別の世界にいきなりタイムスリップしてしまったような、現実離れした大自然の姿である。川の周囲に広がる森も一層静けさと荘厳さをましてきているようで、まるで「もののけ姫(宮崎駿 作)」に出てくる“シシガミの森”かといったような、すぐそこから今にも“コダマ”が出てきそうな神秘的な雰囲気もある。
2人、「はぁ~。」「へぇ~。」とバカみたいな感嘆の声を何度もあげつつ、その間にもボートは更に上流を目指して進み続ける。
上流に登ってくると、川の途中に小さな滝というか、段差のような場所が1つ2つと現れ始める。そんな時、ボートはその手前で加速をつけ、水の層が薄くなる段差部分ではスクリューを止めて勢いだけで登っていくのだ。しかし、時には加速だけでは段差を登りきれない場面も出始めてきた…こうなると、乗り合わせた男性陣が全員で水の中に飛び込み、両サイドからボートを押して進んでいく事になるのである。
「南米流体感型Tour方式」の本領発揮である。
こっちのTourに参加をすると、お金を払って働かされるというか、自分の身体を動かして乗り切るしかない場面がやたらと多いような気がする。
日本だったら、こんな流れのある川の中にツアー客を投げ出したりはしないだろうなぁ…。
結局、こちらのTourでは、料金に「安全料」は含まれていないというのが実感である。自分の身は、自分で守るしかないのです。非常に原始的。
それでもこれはこれで楽しいっていうのもまた事実なのである。この大自然の中に“参加した”感も十分に味わえるし、足の裏に感じる岩やら何やらのゴツゴツした感触や痛みが、この川自体の感触となって身体の中に染み入ってくるようだ。
さらに雲が増え始めてきた夕方5時頃になって、ようやくボートは今日の宿泊地であるキャンプ場に到着した。ここもやはりハンモックの寝床で、4スミの柱と波イタの屋根だけという開放的な空間の中に、20本ほどのハンモックが並べて吊り下げられている。
後ろには既にAngel Fallのあげる轟音が聞こえてきている程の距離なのだが、暗さのせいでその姿をしっかりとは見ることができない。
長テーブルと長椅子でみんな揃ってのディナーを平らげ、その後ちょっとハンモックに横になったら、すぐにウトウトと眠たくなってきてしまった。
明日はいよいよ、太古の森に潜んだ“天使”とご対面である。
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