26 October, 08

「Make it simple。」

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朝、山と大地の向こう側から日がゆっくりと昇ってくるのを2人で静かに眺めた後、ホテルの部屋に戻ってからは、なんとなく特にする事もなくて、2人ともベッドの上で横になっている内にいつのまにやら眠りに落ちてしまっていた。

そして、カーテンの隙間から差し込む日差しが強くなってきた頃、まずベッドの窓際に寝ていたJが目を覚ましてダイニングの方に様子を見にいってみると…

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奥のキッチンがある場所のあたりから、なにやらガタゴトと物音がしているのが聴こえてきていた。どうやら、もうすぐ朝食の支度ができるのかもしれない。
時刻はこの時点でM7:00を少し過ぎたくらいである。
Jeepのお迎えが来る予定は正午を過ぎたくらいなはずだから、まだまだ時間はたっぷりあるってこと。“塩”以外に何もないこのだだっ広い大地の上で、今日は一体何をしてやろうか…。する事なんてあまりないはずなのに、それでも何だか気持はワクワクしてくる。
そんな事をちらっと頭の片隅で考えている内に、朝食は昨日の夜とはまた別の“日当たりのいい”長テーブルの上に用意されることとなった。

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因みにこのホテルは壁や床からベッド・机・椅子などの家具にいたるまで、全てが“塩”で造られており、この日の朝食の舞台となる食卓もその例外ではなく、やはり完全に“塩製品”となっている。椅子は塩だけでは硬すぎるからか、さすがにその上に布で出来た座布団が敷かれてはいるけれども、とにかく何から何まで塩でつくってあるというのは、それだけでそれなりに楽しげな雰囲気が出るものである。
朝食はパンにバターとジャムが付いて、その横に紅茶のティーバックとインスタントコーヒーが置かれているだけの非常にシンプルな内容ではあるが、シチュエーション自体が既に特別であるだけに、それはそれで結構満足できてしまう。

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そんな食卓の周りにて4人であれやこれやと世間話をしながら紅茶やコーヒーを何杯もお替りして、ゆっくりとした朝食のひと時を存分に楽しんだ後に、今度は出発までの時間を塩湖の真ん中で有意義に過ごそうと外の世界へ遊びに出掛けたのです。

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日の出を見ていた時には柔らかく感じられた太陽の光も、この頃にはすでに強烈で刺すような日差しに変わってきている。空気は冷たく澄んでいるから湿気による暑さは全く感じないけれど、顔や首など肌を露出した部分はジリジリと焼かれていくのがよく分かる。
だから、多少暑く感じたとしても薄手のマフラーや帽子を被って、肌の露出を少なくしながらその純白の大地に足を踏み出すことになるのである。
とにかく今日は、昨日よりもさらにホテルから離れた場所まで歩いて行ってみよう。
じゃあ、眼をつぶった状態で5回それぞれに廻って、それから200歩づつそのまま目をつぶって歩いてみようよ…。
そんな風にして少しづつホテルの建物から離れていくと、ある時点から先で突然、ホテルの傍にいる時とは全く違う風景が目の前に現れてくるのである。

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ただ、1つの小さな建物が自分から少し遠くに離れていくだけなのだが、昨日の項でも書いたとおり、それだけで周囲の風景が大きく拓けて見えてくるのだから、何だか本当に不思議なものだ。
今日は2人ともポケットの中にi-Pod(Mはi-Pod shuffle)を忍ばせきていたから、ある程度ホテルから遠く離れてきたところでお互いにも少しだけ広めに距離をとって、それぞれにイヤホンを両方の耳へとつっこんで、自分の好きな音楽を空っぽの頭ん中に流し込んだ。
すると、それまでとはまた違ったイメージの世界が目の前のまっ白いキャンバスの中に立ちあがってくるのである。
曲を変える度、そこにまた新しい世界が生まれてくるような感覚。

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そんな気分が面白くって、お互いたまに顔を見合わせてニヤリと笑い合ったりしながら、いつまでもいつまでも、その大地と音楽の奏でるハーモニーを飽きることなく楽しんでいました。
そんな風にしていたら、あっという間に12時が近づいてきていた。
そろそろホテルに戻って待機していようかということになって、米粒のように小さくなってしまったホテルの建物の方へとゆっくり帰り始めた時、それまでずっと着け続けていた両耳のイヤホンを外すと同時に、耳鳴りのような不思議な音が音楽の代わりに耳に飛び込んできたのです!?何だろう、これ…。
不思議に思ってさらに耳を澄ましてみて分かったのは、そこではもう、さっきまで2人の周りをかすかに吹いていた風もすっかり止んでしまっていて、音を発する要素というものが何もなくなってしまってたってこと。あまりにも静かすぎる空間の中で、逆に耳鳴りのような不思議な音が耳の中に響いてしまっているようなのである。

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こういうのって、どういう原理で起こっているのか…そういう詳しいことについては2人ともよく分からないのだけれど、とにかくこの時点では、2人の周りにあるものが「空と大地」だけになってしまってたってことだろう。
また1つ、更にシンプルな世界になってしまった…。
それでも、こんな世界の中を彷徨っていられるのも残りあと数分間の事であろう。
その後はまたこのホテルの周りもToyotaの4駆に乗った沢山の観光客たちに占拠されて、ただ「騒がしいだけ」のいつもの世界に逆戻りしていくのだろうから…。

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