20 December, 10

「旅人の唄。」

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荒涼とした大地に張られたボロボロのテントが並ぶ、小さな村の前で開かれた、素敵な演奏会。魅力的なカタチの弦楽器から奏でられるのは、「ボパ」と呼ばれる彼ら部族にしか演奏できない、この土地に伝わる古い、古い音楽…。

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ここには、同宿の“宗ちゃん(日本人男性。75歳。年上ですが、本人の希望によるこの呼び名で。)”に連れてきてもらった。Jodhpurの町の中心から、オートリクシャで30分くらい走っただろうか。以前に何度もこの場所を訪れている宗ちゃんが「ここだ、ここ。」といってリクシャを降りた場所は、大きな郊外道路の脇に佇む小さな病院の前だった。

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周囲には本当に何もない、どこまでも辺鄙な土地である。傍に屯していた地元の兄ちゃんたちに「ボパのみんなはどこにいるかね?ボパだよ、ボパ。ユーアンダスタン?」と、宗ちゃんが気軽に声をかけると(宗ちゃんはいつも、まず日本語で話しかける)、「こっちにはもういないよ。みんな、持ってた家も売っ払って、あの線路の向う側に移動しちまったからな。」なんて、当たり前のように“彼らの居場所”を教えてくれた。

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言われた方向に100メートル程歩き、フェンスも何もない線路をまたいでその向こう側に視線を向ける。すると、広がる大きな“空き地”の上に、寄り添うようにしてこじんまりと並んだテントの群れが見えてきた。「あった!あれだ。お~い、みんな、また来たぞ~!!」

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宗ちゃんがそういって声を上げると、テントの中から数人の若者たちが駆け寄って来て、親しげにハグを交わし始めた。最後に彼らを訪ねたのは4年前だといっていたが、彼らの方も宗ちゃんのことを忘れてはいなかったようである。

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少し説明しておくと、“宗ちゃん”は元々、インド西部、デカン高原の端にある大石窟遺跡「エローラ」を長年にわたって調査・研究し続けている人で、その調査の傍ら、何十年も通い続けたこのインドという国に残る“伝統芸能”をもまた、個人的に記録し続けているらしい。この“ボパ”と言う民族とも随分昔からの“付き合い”で、宗ちゃん本人もここの民族特有の伝統弦楽器(…名前忘れた…)を所有し、その知識にも精通している。

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もし、宗ちゃんから話を窺わなければ、2人にとって彼らの奏でる音楽は「Jodhpurの砦の門のところで、義務的にチップ目当てで演奏されていた、ちょっとイイ音のインド風音楽」というぐらいにしか認識されていなかったハズである。まさに、一期一会。宗ちゃんとの出会いも、彼ら“ボパ”との出会いも…。

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朝の冷たい空気の中で最初は縮こまった演奏をしていたボパたちも、「ちゃんと衣装着替えて、踊りも踊らなきゃ、なぁ、おい!」…なんていう宗ちゃんの威勢のイイ要望に応えるように、1人、また1人と徐々にやる気を出してきた。そこから、本格的な「伝統芸能」の姿がチラチラと顔を覗かせ始める。…といっても、これはあくまで「娯楽」の為の音楽だから、堅苦しい雰囲気なわけじゃない。あくまで陽気で、みな楽しげだ。

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この、ラジャスタン地方独特の魅力的な民族音楽が廃れてしまった背景には、やはり現代のインド社会に入り込んできた西側文化の影響があるだろうと、宗ちゃんは言っていた。今ではテレビや映画、その他色々な楽しいイベントがその辺にわんさか転がっているから、こういう古臭い伝統芸能が「娯楽」として必要とされなくなってしまったのだろう、と。

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その結果、ボパと呼ばれる民族たちは「職」を失い、「居場所」を失って、ボロボロのテントと楽器だけを手に持ち、まるでジプシーのように様々な土地を転々としながら、そのうちにこんな郊外の辺鄙な場所まで追いやられてしまったというのだ。
「自分たちの先祖は、その昔はクシャトリア(王族・貴族)の身分だったんだ。」と、時に彼らは自慢げに自分らの「血統」について語るらしいが、その真偽は…、多分…。

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朝、この線路脇の空き地に並んだボロボロのテント群を見た時には、「これがその、古来からの伝統芸能を操る人々の住まいなのか…。」と、何となく遣り切れないような気持ちにさせられたのだが、いざ、音楽を奏で始めた彼らの顔の表情が本当に“生き生きと”していた事で、いつの間にかそんな暗い気分は何処かに吹き飛んでしまっていた。

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途中までは隅の方で恥ずかしそうにモジモジしていた若い女の子が、久しぶりに村を訪ねてきた“客人”を楽しませるため、軽やかな舞いを披露し始める。ここでは、結婚した女性は踊りを踊ってはいけないらしく、音楽に合わせて踊りを舞うのは全て“未婚”の若い女性である。それにしても、彼女はまだ“少女”といっていい年齢だろうが、なんとも見事に、堂々とした舞いを見せてくれている。宗ちゃん曰く「みんな、3歳くらいから踊りに親しんでいるから、このくらいは朝飯前なんだよ。」
新たに小さな打楽器が加わった事で“音”がより一層華やかになり、場の雰囲気がさらに熱を帯びてきたようだ。もちろんこれは、演奏会の後に支払われることになる“チップ”を思ってのサービスなのだろうが、それだけとはとても思えない、自然な笑顔や笑い声が、この荒野の青空の下には溢れていた様に感じられた。ここに来れて、良かった。彼らに出会えて、本当に、良かった…。

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